手のなかの森

私が始めて津別を訪れたのは、今から35年前の秋です。森は美しい紅葉のさかりで広い空の下に山全体が黄金色に輝いていたことが印象的でした。その後、津別を訪れるたびに出会う森の風景が積み重なり、札幌に生まれ育った私自身の森のイメージの源になっています。

そこから設立したばかりの津別町木材工芸協同組合と共同で木工クラフトを商品化する仕事が始まりました。目的としたのは、「木のまち津別」そのものを商品として発信する試みです。それは、「木のつべつの木」という名称があらわすように、商品全体が地域の特性を持つことです。いいかえれば、単に道産材を使って目新しい木工製品を製造・販売するだけではなく、北海道の木で私がデザインし津別の人が作った「もの」が、どれだけのことを「語る」ことが出来るかの挑戦でもあります。
手に取ったひとつの木工クラフトから手触りや、音や、香りを通して、北海道の森を想いデザインの心を感じてほしいと思いました。

たとえば、KEMの製品に「タマコロ・ファミリー」という木の人形があります。木玉の手足と体がゴムひもでつながり、胴体の切込みにあわせて動くので、いろいろなポーズが作れます。この人形たちが、津別の森の中で楽しそうにしている様子を想像してください。森に住む動物や植物と共存して暮らす豊かなイメージが広がって行きます。それは、木の人形の世界だけにとどまらず「愛林のまち津別」にも重なります。

十種類の道産材で作った木のタマゴ「森の鳥たちからの贈り物」は、それぞれの木の色や、重さ、木目などの違いを知ってもらうための素材見本として考えました。
生き物の生命を感じさせる木のタマゴから、一本の樹へ、そして森へと続く・・・ 『 手のなかの森 』を感じてもらいたいと思ったからです。
手にしたタマゴを慈しむように、子供たちの心に森への慈しみが生まれることを願ってデザインしました。

産業的に見ても日本経済全般の低迷の中で、特に北海道の木材・木工産業は大変厳しい状態が続いています。たんに、同じような商品を作るためならば海外の安い素材と人件費を利用するやり方もあります。しかし、北海道の木の素材にこだわり、津別町木材工芸協同組合の「木のつべつの木」として自信を持って送り出す商品としては、ふさわしい手段ではありません。

一般の日常生活用品の消費サイクルは短く、次々と新製品が作られ消費されてゆきます。
ですが、木で作られた「もの」は木がゆっくり成長するように、ゆっくり使っていきたいものです。
何代にもわたって使い続けられてきた木の道具が「語る」言葉は、人の心におだやかに届くでしょう。そして、その「もの語り」に共感する人達が多くなり、みんなが木や森や地球のことを話し合えるようになれば、すばらしいと思っています。