木の遊具から帯広市図書館のデザインまで

十勝の田園風景 

十勝の田園風景
 


目に見えない大切なもの

 KEM工房のデザイン・コンセプト「子供たちとかつて子供だった人への贈りもの」は、本好きの方ならすぐにピンと来るでしょう。これはサン・テグジュペリの『 星の王子様 』に由来しています。この本は子供向けの童話の体裁で書かれていますが、世界120カ国以上の言葉に翻訳され年齢を問わず多くの人々に愛読されている20世紀の名作です。著者は物語をとおして読むひとに、目に見えない心の世界の大切さを気づかせ、心の通った愛や友情のありかたを問いかけています。

 私が始めて『 星の王子様 』に出会ったのは、中学校の英語の教科書でした。冒頭にふたつの絵が出てきます。ひとつは口を大きく開けて動物に巻きついているウワバミの絵、もうひとつは帽子を横から見たような不思議な形です。これはウワバミが象を飲み込んだ状態を描いたもので、次のページには象が断面図としておさまり、謎解きになっています。文章が英語だったせいもあり、いろいろと象以外のものを考えることが楽しくて記憶に残っています。

 大人になるにつれ私たちは自分が子供だった頃の想像の世界と楽しさを忘れ、心の柔軟性を失いがちです。遊びを通して楽しく過ごした時間は子供たちの心にかけがえのない宝物として残り、この蓄積は生涯にわたり何かを生みだすための土壌となってゆきます。大人にとっても、幼い子供の生命の輝きに触れ共感することは、水や太陽の力で種が芽をのばすように、眠っていた心の世界を広げることでしょう。
私は自然や身近なものの中に見つけた新鮮な驚きと感動を、木の素材をとおして素直に伝えたいと思っています。「子ども達とかつて子どもだった人への贈りもの」は、こんな気持ちから生まれています。


優しさの造形

obihiro-lib03.jpg

 これは大切にしている民族遊具「ラップランドのガラガラ」です。30年ほど前、恩師の北欧旅行のお土産にいただきました。幅2センチ位の白樺の樹皮をテープ状にして俵型に編んだもので、中に枝を削った木片が入っているので振るとカラカラと快い音がします。素朴で飾りけのないものですが、これを作ったサンタクロースの国に住む人の優しい心が伝わってきます。土地でとれる材料を生かし愛情こめて作られたこの遊具は、きっと幼な子の心に温かな喜びを与えることでしょう。

 日本にも独楽(こま)やけん玉など郷土玩具として優れた木の遊具が残っていますが、残念なことにそれらは民芸品として扱われることが多く、子供たちの手から離れつつあります。感性を育む素材として手触りや音の優しい木の良さが見直されています。その地方の風土や文化のなかで、永い時間をかけて受け継がれてきた郷土色ゆたかな遊具が、コミュニケーションのツールとして年齢や障害のバリアを越えて人に喜びや楽しさをもたらす役割を担えるのではないでしょうか。


五感で「つながり」を知る

タマコロ・ファミリー

タマコロ・ファミリー

 私のデザインした製品に「タマコロ・ファミリー」という木の人形があります。ゴムひもでつながった木玉の手足が、胴体の切込みにあわせて動くので、いろいろなポーズが作れます。玉と玉をからめて、つなぐこともできるので「ごっこ遊び」の人気者です。このタマコロたちが、森の中で楽しそうにしている様子を想像してください。森に住む動物や植物と共存して暮らす豊かなイメージが広がって行きます。それは木の人形の世界だけにとどまらず、家族や友達との関係や身近な自然への関心にもつながると思います。

 「森の鳥たちからの贈りもの」は、北海道に育つ十種類の木で作ったタマゴです。これは手触りや、音、香りなどの五感をとおして木の色や重さ、木目の違いを知ってもらうための見本として作りました。そこには生き物の生命を感じさせる木のタマゴから、それを生んだ1本の木へ森へと心をつなげ、自然の営みに気づいてほしいとの想いがこめられています。「ナラは、硬くて強いどんぐりの樹。クルミの実はリスの食料で、木材は渋い風合い。イチイはオンコとも呼ばれ、オレンジ色の優しい手触りです。」などと説明すると、だれもが優しく触れてくれます。なんと! 毎晩これを抱いて寝る子がいるそうです。手にしたタマゴを慈しむように、森への慈しみが生まれることを願っています。

森の鳥たちからの贈りもの

森の鳥たちからの贈りもの


こどもの本の森

 2006年3月3日、新帯広市図書館が開館しました。帯広市は気候風土が農業や酪農に適している十勝平野の中心都市で、美しく豊かな森林に恵まれ「十勝千年の森」などの資源循環活動も盛んに行われています。新しい図書館は3階建で旧図書館の約4倍、市町村図書館としては道内3番目の広さです。約35万冊の蔵書とデジタル資料やIT機器が整い、最新の機能を備えた十勝の情報拠点となります。外観は落ち着いた色のレンガブロック積み。春になって周囲の樹々が芽吹けば、緑に囲まれた図書館になることでしょう。私はお話室と児童図書コーナーのデザインをさせていただきました。児童コーナーのテーマは「 こどもの本の森 」です。漢字の「木」に一画加えると「本」になり、「木」が集まると「森」になります。はるか昔に文字を生み出した人々の暮らしは木と本と森が、深くつながっていたのだろうと思います。

 三年前の6月、新図書館の打合せのために初めて帯広へ行った日のこと。駅前のカシワの大木に陽があたり、葉っぱの優しい黄緑色が印象的でした。帰り際に大きな葉を1枚とって本の間にはさんできました。葉の長さは26センチもあります。カシワはミズナラと同じブナ科の広葉落葉樹ですが、秋に落葉せず春まで葉が残ります。ですから、柏林は冬の間も茶色の大きな葉っぱがザワザワ、ワサワサと鳴って、穏やかなにぎわいを見せます。それは新芽が出てくるのを、みんなで楽しそうに待っているようです。帯広市図書館の児童コーナーのデザインは、そんな柏の森がイメージの種になりました。

ふれあいコーナー

ふれあいコーナー

低学年児童の閲覧テーブル

低学年児童の閲覧テーブル

 それでは親子や友達と、時には一人で・・・本や知識との新たな出会いを求めて、本の森の探検にでかけましょう。児童図書コーナーの入口は大きな木のゲートになっていて、子供用の通り穴が開いています。ゲートの裏は、企画や新着絵本を紹介する展示架で、幼い子供たちが自分で本を選べる高さです。吹き抜けに接した低学年児童の書架上には木のレリーフが並んで雰囲気づくり。反対の外壁に面した明るい窓側は絵本書架で、絵本は表紙が見えるように置かれています。さらに進んでゆくと「ふれあいコーナー」。そして、一番奥は「お話室」となっています。
 今回このスペースの書架と家具は、すべて新しくデザインしました。おなじ北海道でも帯広は、私の生まれ育った札幌とは植生や風景が異なります。イメージも材料もできるだけ地元にこだわって、ほとんどの木部は十勝(幕別町)に古くからある合板メーカーのシナ積層合板を使いました。素材の良さが活きるように、木地とグリーン2色の着色塗装でシンプルに仕上げています。大きなカシワの葉はそのままの形でスツールになりました。
 これらの素材となった木材は、十勝の森で長い時間をかけて育ってきた樹々です。これからは書架や家具として、図書館を訪れる人々と同じ空気を呼吸しながら年月を重ねてゆくことでしょう。この空間で子どもたちが魅力的な本と出会い、その楽しさを他の人と共感する喜びを知り、生涯にわたる知的な好奇心を持ち続けてほしいと願っています。